「Dynamics 365と肩を並べる」 – 中堅企業に最適なNetSuite –
Oracle社が2023年10月に開催した年次イベント「Oracle SuiteWorld 2023」では、クラウドERP「Oracle NetSuite」の新たな機能が複数発表されました。
多くのアナリストが「これら新機能によって、NetSuiteは中堅企業にとって最も魅力的なERPの一つになる」と予想しています。
本稿では、新たな機能の概要と、同社及びアナリストのコメントを基に、同イベント内容について解説します。
Oracle NetSuiteの特徴や詳細については、こちらも参照ください。
NetSuiteにおける生成AI機能
このところ、毎日のように生成系AIに関するニュースが発表されています。
そのような中、もちろんERPにおける生成系AIについても同様の状況であり、大手ERPベンダー各社は機能追加や今後の見通しについて、ニュースを発表しています。
NetSuiteにおいては、生成AIアシスタントの「NetSuite Text Enhance」や、NetSuite全体にわたるAI機能「NetSuite Enterprise Performance Management」(EPM)の新しい財務機能などが発表されました。
「NetSuite Text Enhance」はERPシステムに次々と統合されている生成AIアシスタントの最新版であり、ユーザーが意図を数語入力することで、それらを補完し入力を支援するとのことが発表されています。
ERPは業務情報を入力・蓄積することで、経営者の迅速な判断やデータ連携、業務の自動化・効率化を実現します。一方でERPへの入力負担は相応に発生し、得られるメリットが相殺されてしまうケースも起こり得ます。小規模の企業体であれば発生データもそこまで多くはなく、また大規模企業であれば入力専任のオペレーターなど対策も可能ですが、中規模の企業体(いわゆる中堅企業)の場合、入力負担は大きい割に人的資源も乏しく、現場社員が疲弊するケースが多く発生します。
Text Enhance機能がどこまで入力負担軽減に寄与するかは、今後の機能開発次第ではあるものの、大きく期待できるところではないでしょうか。
NetSuiteの創業者兼エグゼクティブバイスプレジデントであるエバン・ゴールドバーグ氏はSuiteWorldの基調講演で「NetSuiteでは今後、より少ない労力でより多くのテキストを扱えるようになる」と述べています。
また、「NetSuite Enterprise Performance Management」(EPM)機能においても生成AIが期待されています。
蓄積したデータからトレンドを予測する、財務データにおける異常値を発見する、計画を随時監視する、など人力では対応が難しかった点も、生成AIであれば低コストかつ精度高く実現が可能となります。
これら生成AIによるText Enhance機能やEPM機能は、同社の大規模向けERPである「Oracle Fusion Cloud」でも発表されています。Fusion Cloudはより多くのユーザーと様々な場面で利用されていることを考えると、そこで蓄積したデータやモデルを基にNetSuiteへも機能展開され、より質の高いサービス・機能へと発展していくことが想定されます。これらは同社が「Oracle NetSuite」「Oracle Fusion Cloud」という複数のERP製品を持ち、互いに共通の基盤「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)上で構築されていることにより実現しており、他社にはない優位性と考えられます。
新たなライセンス形態とベンチマーク機能
同イベントでは、新しいライセンス形態とベンチマーク機能「Benchmark 360」が導入されることも発表されました。
これまでのライセンスの考え方は「1ライセンスで一通りの機能が利用可能」という形でしたが、今回「必要な機能の分だけライセンスが発生」というモデルが導入されます。これにより、一部の機能だけが必要なユーザーにおいては、必要分のみのライセンス購入で利用可能となるためより柔軟な利用が見込まれます。
中堅企業においては、NetSuiteのフル機能をいきなり導入するケースは多くなく、大半は部分的な導入(会計や債権債務のみ等)から開始し、順次事業上に応じて適用・導入範囲を広げていく、または特定ユーザーは特定機能のみを利用、というケースになります。それらを踏まえると、今回の新ライセンス形態は、中堅企業にとって待ち望んだ形、ともいえるでしょう。
「Benchmark 360」は、NetSuiteユーザーが他のユーザーとパフォーマンスを比較できるアプリケーションです。
同社ゴールドバーグ氏は、以下のように述べています。
「Benchmark 360は自社が『どういう点で後れを取っているか』を教えるだけでなく、『どこを改善すべきか』も示す。近いうちにNetSuiteユーザーは、他のユーザーがベンチマーク改善のためどのようにNetSuiteを利用しているかが分かるようになる」
同機能は、最初は財務モジュールに導入され、他のモジュールにも順次追加される予定とのことでした。
どこまでの指標がどの程度比較できるのか、という部分は非常に気になるところではありますが、NetSuiteをより効果的に活用する、NetSuiteにより経営・事業改善へ繋げていく、という点において、大いに期待したいところです。
まとめ
これら機能の詳細や日本展開、ローンチスケジュールなど詳細はこれからという点もありますが、今後に大きく期待の持てる発表であったかと思います。
最後にまとめとして、Technology Evaluation Centersのアナリスト、プレドラグ・ヤコヴリエヴィッチ氏の各種コメントを引用して終わりたいと思います。
「NetSuiteは、Oracleの買収によってもたらされた素晴らしい成長の物語だ」
「NetSuiteが『Microsoft Dynamics 365』を超えたとは言わないが、肩を並べようとしているのは間違いない。国際的な財務に関して、今や中堅企業向け市場の勝者といえる」
「Cohereの技術をベースにしたText Enhanceは、ユーザーごとの文脈や独自用語から学習できる。この生成AIはまた、データやプロンプトの蓄積とともに学習し、調整されていく」
「彼らはWMSからこのライセンス提供を始める。例えばモバイル機器で入出荷管理機能を利用するユーザーは、NetSuiteの全機能を必要としていない。それなのになぜ全機能のライセンス料を支払う必要があるのだろうか」
(以上、ヤコヴリエヴィッチ氏コメント)
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